公益通報者、内部告発者の心理と公益通報

公益通報者、内部告発者に共通する心理は、公益通報行為、制度自体に対する不知、不安。公益通報から派生する通報者および周辺(家族など)に及ぶ影響。通報、告発したことにより通報対象事実が改善がされるか否か、通報者、告発者に不利益、害悪がおよばないようにと考える自己保身の心理です。

公益通報者、内部告発者の心理、心情は、通報事実、環境などの諸要因が千差万別であることから、この点に焦点を当て論じることはむずかい事と考えます。
 公益通報保護者法でこの点に関わる事は、第2条で
                  『不正の利益を得る目的、他人に損害を加える目的その他の不正の目的ではなく』

と規定されています。主観的要件です。この解説では少し離れて、公益通報を行おうとする者、公益通報者の心理について記載致します。

公益通報者の心理心情とはいかなるものでしょうか。私は、大きく次の4つに大別可能だと考えます


1.公益保護の意味意義を理解し、公益保護ために公益通報を行うという、強い信念に基づく純粋な公益通報の場合。

2.上記までの公益通報に対する強い信念、認識はないが、通報対象事実に接し、社会的な問題(違法性、倫理観なども含む)と考え公
  益通報しようとする気持ちの場合。

3.公益通報を行うに当たり、公益保護の意識は希薄であるが(公益を守ろうという気持ちはない)公益通報対象事実に対して違法性の
  認識がある場合や、労働者としての倫理観に基づく場合。

4.不正の目的を得る、損害を加える、報復目的などの場合。

 次に公益通報、内部告発しようとする者が持つ共通の心情とは、換言すれば公益通報を行う場合に生 じる不安、すなわち以下の6つが代表的であると考えます。
 
 A.公益通報制度、公益通報の方法に対する不知
 B.公益通報から派生する具体的事象と自分および周辺(家族)に及ぼす影響、懲戒や解雇等の不利益処分。経済的打撃
 C.公益通報が会社、機関(労務提供先)に与える影響。取引先等も含む。
 D.公益通報により、通報対象事実が解消するか否か
 E.公益通報者の情報が労務提供先などに漏洩するか否か。
 F.自己保身


では、以上の公益通報者の心理を斟酌した上で現行法制度のもと、有効な公益通報が行えるのか、公益通報者が公益を保護する意思を有し、通報した場合、公益通報者は、守られるのかという問題。

 答えは、現行法制度では公益通報行為自体は行うことは出来ても、公益通報者は上記に列記した心理心情や公益通報者保護法が包含する多くの問題のため、黙認せざる得ない状況か有効な保護は期待できない現状であると考えます。

 公益通報者の心情の内、4は明らかに法律に抵触し公益通報の立法趣旨に反する行為であり、公益通報者保護法による保護に該当する者ではありません。他方、公益保護の意識が希薄であったとしても、事案によっては重大な通報対象事実、事案に該当する場合があり、公益通報は原則的に広く広げるべきと考えます。公益通報者視点から問題となるのは、むしろ不安事由だと考えます。

 私は提言します。

公益通報を受理する
中立性、独立性が担保された第三者機関、あるいは部門が出来なければ公益通報制度は有効に機能しない。公益通報対象事実において、罰則を規定した法律違反に対する事実、行為で無ければ公益通報の対象にならないとする現行法は改正すべきである。
そして、公益通報に対して妨害行為を行った場合や、公益通報に対する報復的な解雇、その他の不利益行為に対しては
明確な罰則規定を定めないかぎり、公益通報者視点からは公益通報は困難である。
 
 
公益通報先は労務提供先、行政、一定の要件を満たした場合、事業者外部(報道機関など)への通報が規定されていますがその方法などは何処にも記載してありません。そこまで規定する必要はないという意見もあると考えます。しかし、公益通報者は多くの心理的負担をしいられます。まして、自分が直面した公益通報対象事実に関しても、公益通報の客体となるのか、公益通報者として保護されるのか。ありとあらゆる問題が生じてきます。とすれば、具体的な方法などを説明し、相談を受ける専門的機関、あるいは該当部門は必須と考えます。

特に私が主張したいのは罰則規定の制定です。
 私が行った公益通報の事案では、公益通報先である大病院のトップ、幹部が私に対し、業務命令で内容証明郵便の送達禁止などの明かな公益通報妨害を行い、最終的には左遷人事を行いました。公益通報者が最も恐れる事。しかし、何ら罰則がない。公益通報者はこのような場合(解雇を始めとする不利益処分の場合)は訴訟を提起するしかない。では問いたい。公益通報者は心理的に多くの問題を持つ状況でさらなる訴訟など行えるのか。懐疑的です。通常は潰されます。潰れます。
 罰則規定が明確化されれば、労務提供先はおいそれと公益通報者に対する不利益処分を行えなくなります。罰則規定の制定には、多くの問題が生じます。対象行為、範囲の限定など。しかし、罰則を制定しなければ公益通報は有名無実です。罰則があるならば、労務提供先はそれなりに対応しなければならなくなります。実際、罰則が無いからこそ労務提供先は不利益処分を行うのです。公益通報者視点からはある意味、安心感が生じるのです。公益通報の保護法益は国民の生命、身体、財産です。これらに対して、公益通報を行う場合は厚く保護すべきであると考えますし、解雇などの不利益処分、公益通報妨害行為に対しては法益侵害と生じる結果から罰則規定を制定するべきと考えます。

 実際、私は大きな公益通報を行いました。勤務先による数々の嫌がらせを受け健康を大きく害し、休職せざる得ない状態にあります。経済的にも大きな打撃。.....公益通報を公益保護の観点から強い気持ち、信念で行う。しかし、罰則無き限り、相手先は非違行為を承知で公益通報者に対し不利益行為を行う可能性がある。 極めて悪質です。    
                                  (産経新聞2011.9/28.9/29)  
 圧倒的に公益通報者が不利なのです。
 私の場合は、更に公益通報事案を管轄、処分権限を有する厚労省でさえ公益通報の情報を漏洩した 実際にあったことです。
           (週刊現代 2011.10/29発売)(週刊東洋経済.2012.2.27発売)

公益通報に対する妨害行為
公益通報の対象となった労務提供先(勤務先)の不当調査、身内お手盛り調査
                                                           を参考にしてください


 私の勤務先は事務官が厚労省と頻繁に行き交う国内有数の専門医療の中枢で大病院。勤務先の事務官、事務部長は厚労省の役人、多くの事務官は厚労省出身。公益通報事案が大きくなるほど情報漏洩の可能性は大きくなる。行政すら信用できない。
 ある地方都市の医療従事者は、大きな社会性を有する医療不祥事の公益通報を行おうとしています。犯罪的不祥事、重大事案。しかし、勤務先の病院長と保健所長は同じ大学、同門。地方自治体とのつながりも非常に強い病院で情報漏洩を恐れて、公益通報をためらう事実。これが現状なのです。
 日弁連の公益通報者保護法の見直しに関する意見書にも厚労省は公益通報を棚上げにし、公益通報者の情報を漏洩したことが記載されています。こういった状況で、しかも公益通報者は公益通報に対し多くの不安を持つ。通常では公益通報なんて出来ません。公益通報に対する第三者機関、部門を早期に設立すべきです。
 
 公益通報者の心理は公益通報したら、この先、職業はどうなるのか、経済的打撃は、会社は、情報が漏れないか、私がやったとばれないか。事案は解消されるか....このような不安に満ちた心理状態です。
この状態に対し、現行の法制度は安心して、有効な公益通報を行える制度ではない。だから多くの公益通報事案が埋もれている。これが現状ではないかと考えます。


私は、現在、公益通報を行う人の大半は、

・職場を辞してもある程度の資産、資力がある。(経済的安全性)
・公益通報事案が社会に与える影響が大きいか、違法性が高い(看過しえない。)
・職場を既に辞める決心がついている。

などの、本来、公益保護の根本とは異なる周辺環境に公益通報が左右されており、実質的に公益通報制度が機能し得ないと考えます。

 だからといって諦めるということではないのです。要は、現行法制度の中でどの様にすれば、有効に公益通報者に有利な公益通報、内部告発が出来るかという問題に換言されるのです。